最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)1043号 判決 1960年3月22日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人増田道義の上告理由第一点について。
原判決の事実認定によれば、被上告人(原告、被控訴人)の上告人(被告、控訴人)に対する本件土地賃貸借が昭和二八年八月二日到達の契約解除の意思表示により解除された後上告人はその従前の延滞賃料を支払わず同年一一月六日延滞賃料三ケ月分を供託したのみで両当事者間における右土地賃貸借に関する紛争は未だ解消するに至らなかつたところ、すでに被上告人より右紛争につき訴訟委任を受けていた弁護士森景剛は同年一一月二一日本件訴訟委任者である被上告人から本件訴訟の目的物である右賃貸土地の一部たる原判示石神井二丁目一九四四番地の宅地二三〇坪を買い受けることの予約をしたというのである。
ところで、弁護士法二八条は弁護士が事件に介入して利益をあげることにより、その職務の公正、品位が害せられまた濫訴の弊に陥るのを未然に防止するために設けられた規定であるから、たとえ弁護士が同条に触れる取引行為をしたとしても、その場合に右取引行為の私法上の効力が否定されまたその弁護士が同法七七条所定の刑罰を受けるのは別論として、右取引行為の目的となつた権利に関する訴訟委任およびこれに基く訴訟行為が同二八条により直ちに無効とされるものではないと解するのを相当とする。されば、弁護士森景剛が被上告人との間でした右土地売買予約が前記法条に違反するとしても、これがため被上告人が同弁護士に対してした訴訟委任および同弁護士がその代理人としてした訴訟行為は無効となるものではない。所論の点に関する原判示は相当であり、論旨は理由がない。
同第二点について。
原判決の認定によれば、本件土地は昭和二六年一〇月頃新築に着手した鶏舎およびその附属施設としての居宅の敷地にあてられたものであるというのであるから、本件土地に地代家賃統制令が適用されないことは同令二三条二項二号の明文上明らかである。論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)